2007年10月07日

『戦国三好一族』今谷明

 今回紹介する本は
  今谷明『戦国三好一族』洋泉社MC新書
です。
 この本の原本は1985年に刊行ですから、20年以上前の本ですので、最新の研究と比べると古さを感じさせる点が多々あると思いますが、それでも畿内の戦国史を概観する上で、最も手ごろなものと言えるのではないでしょうか。
 内容は室町幕府という旧権力と、三好氏(特に長慶)という新権力のせめぎ合いが描かれております。結局、三好氏は室町幕府体制を崩すことが出来ずに終わる訳ですが、著者は、「百歩譲って、信長以前の畿内政権という面からだけを見ても、幕府権力を形骸化し、信長が試行錯誤をした同じ過程を、数十年前に行った意義は決して小さくない」と高い評価をあたえています。
 このような高い評価をあたえている一方、要所で織田信長との比較を行っているところは、非常に興味深いところです。「一切を冷酷に押し切った信長の割り切り方をできなかった長慶の悲劇があったのだ」という言葉にすべてが表わされておりますが、悪く言えば優柔不断、良く言えば人格者であった長慶の性格が、新時代を開かせる可能性を消してしまったと、厳しい評価も与えているのです。このあたりは、三好氏に興味のある人だけでなく、信長のファンにも是非読んで欲しいところです。
 さて、余談ですが私はこの本を読んで、初めて松永久秀をカッコイイと感じました。永禄4年(1561)から5年にかけて、六角義賢・細川晴元・畠山高政らに攻められ、長慶は飯盛城に籠城を余儀なくされてしまいます。久秀は、その長慶を救い、最後は天下分け目の教興寺の戦いで勝利を呼び込みます。これだけでも久秀は英雄と言えるのではないでしょうか。
 以上、畿内の政治史は門外漢のため、ただの読書感想文になってしまいました。
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2007年10月31日

『秀吉神話をくつがえす』藤田達生

 今回紹介する本は、
   藤田達生『秀吉神話をくつがえす』講談社現代新書
です。
 本書の題名から、津田三郎氏の『秀吉英雄伝説の謎』(中公文庫)のような内容かと思ったのですが、そうではありませんでした。ちなみに『秀吉英雄伝説の謎』ではその死後実際に「豊国大明神」にまで登り詰める秀吉の神格化について叙述しています。
 一方、本書ではまず第一章で秀吉の前半生(本能寺の変まで)を述べています。
 この章での著者の力点は、秀吉は「非農業民」の出身であったとの指摘です。「非農業民」(著者の叙述では単なる商人なのか、被差別民なのか判然としないところがありますが)であったがゆえに、旧来の常識にとらわれず、一人だけ異次元の行動をとることができたのだ、という論旨になります。本章では直接この点を論述している量は多くはありませんが、第二章及び第三章においても通底しているイメージとなっています。
 なお、藤田氏は、「信長は〈中略〉秀吉のことは「禿鼠(はげねずみ)」と呼んだが、「猿」と呼んだ確証はないのである」と指摘しているが、一般的には織田信長黒印状(『増訂織田信長文書の研究』七〇〇号文書)に「猿帰り候て」とあることから、「猿」と呼ばれていたことは間違いないとされています。
 第二章においては、本能寺の変について語られます。著者はこの呼び方に不快感を示していますが、一般的には「足利義昭黒幕説」と呼ばれている内容です。本能寺の変に関しては、近頃百花繚乱の感がありますので、桐野作人氏の『真説本能寺』(学研M文庫)、鈴木眞哉氏・藤本正行氏の共著『信長は謀略で殺されたのか』(洋泉社新書)、谷口克広氏の『検証本能寺の変』(吉川弘文館)等との併読をお勧めします。残念ながら私にはこの点について批評する知識がありません。
 続いて第三章ですが、これは藤木久志氏の『豊臣平和令と戦国社会』(東京大学出版会)への批判となっています。藤木氏についてはこのブログでその著書『刀狩り』を紹介させて頂いております。その『刀狩り』においても藤木氏の提唱する「豊臣平和令」の思想は基礎となっていたので、藤田氏のこの批判は興味深いものでした。
 藤田氏の指摘は以下の2点に集約されます。一つ目は「豊臣平和令」と呼べるような法令は無いということ。二つ目は秀吉の統一事業は、平和政策を基調とし平和を乱した大名を征伐したのでは無く、豊臣政権の恣意的な国分施策を貫徹するための戦闘行為であったとしています。
 私は他に比較すべきものを読んだことが無いので、軽々な事は申せませんが、この章は一読に値すると思います。
タグ:豊臣秀吉
posted by 天王寺屋 at 01:04| Comment(0) | TrackBack(0) | 織豊政権 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする