2007年07月14日

はじめに

 歴史が好きで、特に日本の戦国時代が好きでいろいろな本を読み漁っておりました。そんな本の中でも、「おおっ、これは!」と思うものもあり、「買って損した」と思うものもあり、様々です。
 そんな本の中から、「歴史研究の役にたった」とか「おもしろかった」ものなどをピックアップして皆様にお伝えしてゆこうと思っておりますので、よろしくお願いいたします。
 何せこのご時世ですから、需要の少ない歴史の本などは、すばらしい本が出てもすぐに廃刊、気付いた時には二度と手に入らないなどと言う事が往々に起こります。そんなことが、少しでもなくなるように。また決して安くもない本を買う際の参考にしていただければと思っております。
 まずは、遅ればせながらですが、本年の大河ドラマの主人公山本勘助(山本勘介)の関連書籍からはじめたいと思います。
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2007年07月15日

『戦史ドキュメント 川中島の戦い』平山優@

 前回、山本勘助について予告をしていながらいきなり肩透かしを食らわす形になってしまうかもしれませんが、今回は
  平山 優著『戦史ドキュメント 川中島の戦い 上』学研M文庫
  平山 優著『戦史ドキュメント 川中島の戦い 下』学研M文庫
を紹介したいと思います。
 なぜ、この本から紹介するかというと、山本勘助の生きた時代、状況を概観するのに便利だからです。
 みなさんよくご存知の戦国時代、しかも人気の武田氏のことですから、いまさら概説なんてと思うかもしれません。しかし、私達の戦国時代のイメージの多くは小説ドラマなどから作られたイメージであり、実際の史実とはかけ離れていることが間々あります。
 ところが、本書は一次史料(その当時発給された書状や日記など)を中心に叙述されており、学問的なレベルで武田氏研究のスタンダードともいえる内容となっております。
 特に、「武田家がなぜ連年にわたって他国へ戦争をしかけたのか?」という問いに対して、その当時の甲斐国の生産高や飢饉などの状況を説明し、武田政権の政策とその置かれた状況が密接に関係している点を指摘しており、非常に興味深い内容となっております。
 また、私としては諏訪氏を初めとして敵対、従属した諸豪族についても詳細に述べられているのは大いに参考になりました。他の武田信玄の伝記などではあまり触れられない内容であるので、私以外でも新鮮に感じる方は多いのではないかと思います。
 ところで、この本は前述のように、学術書レベルの内容を持っていると思いますが、平易な叙述(読みづらい原文には書下し文をルビでいれてあったりもします)であるので、予備知識のないかたでも、簡単に読めると思います。
 また、文庫!であることから安価(上巻651円 (税込)、下巻683円(税込) )であるというのも嬉しい限りです。
 さて、ここまで書いてきて、記述があまりに冗長になってきたので続きは次回にしたいと思います。
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2007年07月16日

『戦史ドキュメント 川中島の戦い』平山優A

 前回の続き『戦史ドキュメント 川中島の戦い』ですが、残念な点が二つあります。一つ目は書名にあるように、あくまで「川中島の合戦」がテーマですので、第五次川中島合戦(永禄7年(1564))を以って記述が終了してしまうことです。当然これ以降も知りたくなるのが人情ですが、同じ学研M文庫の「三方ヶ原の戦い」も「長篠の戦い」もあくまでそれぞれの「戦い」を中心においているので、武田家の歴史を概観するというものではないのです。もともと「戦史ドキュメント」と銘打っている訳ですから、内容としてはこれらの方が正しいという気がしますが・・・。
 それともう一点、本来本書の中心となるべき第四次川中島の戦い(武田信玄と上杉謙信の一騎打ちがあったとされる戦い)について、特に目新しいことがないことです。
 これは、信用できる一次史料が限られているので、致し方ないことなのですが、この部分のみは信頼性の落ちる軍記物(『甲陽軍鑑』)をもとに構成されてます。
 よって、この本のメインであるにも関わらず著者自信が断っている(「つまり本書のこの部分は、完全に読み物としての性格を持たせることにしたのである」下巻(P241))通り、歴史学的な叙述というより小説的な叙述になってしまっております。したがって、「川中島の戦い」についての新知見を期待して買った人にはいささか食い足りないかもしれません。
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2007年07月17日

『山本勘助』上野晴朗

 さて、いよいよ山本勘助についてです。
まずは、山本勘助を語る上で欠かせない、
   上野晴朗著『山本勘助』新人物往来社
です。
 この本はながらく絶版となっておりましたが、今年の大河ドラマの放映に合わせて復刊されました。山本勘助を研究のエポックとなった本であり、山本勘助を研究するなら必備の書と言えるでしょう。
 内容は、市川文書の発見により山本菅助(勘助)の実在説が浮上する中、著者はそのフィールドワークによって、勘助の実在を証明して行くという内容となっています。
 調査内容が家伝や伝承などの類であることから、いわゆるアカデミックな内容ではありません。しかしながら、山本勘助に関する信頼できる史料が書状一枚しかない以上、山本勘助に関して書くということは、自ずとこのような手法にならざるを得ないということではないでしょうか? その意味ではこの本は、その当時の山本勘助研究の一つの到達点を示しているといえるでしょう。
しかしながら、初版の発行が1986年と今から20年も前であり、いかにも古いという感じは否めません。最近注目された萩藩閥閲録中の記事などついても(それが信頼できないものであるとしても)、言及が欲しいところです。
 よって「山本勘助に関する本を一冊だけ」という方に、この本をお勧めするのはためらいを感じます。あくまで二冊目、三冊目に購入する本だと思います。
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2007年07月18日

『山本勘助』平山優

 さて、今回は先日紹介した『戦死ドキュメント 川中島の戦い』の同じ著者の
  平山優著『山本勘助』講談社現代新書
を紹介いたします。
 この本、書評などをみると非常に高評価を得ているようにみえます。確かに非常に真摯に山本勘助に取り組んでいらっしゃると思います。
 しかしこの本は、多くの読者が期待するような「山本勘助の実像」に迫るといった趣旨の本ではありません(唯一、「終章」のみがわずかに実像について考察しております)。
 本書のテーマはあくまで『甲陽軍鑑』に描かれた山本勘助像を解説するといったものです。ところが、皆様ご存知のようにこの『甲陽軍鑑』は、歴史的事実からかけ離れた記述が多く、極論すれば「思想書」または「小説」に当たるものです。ということは、「司馬遼太郎の小説の中で、坂本竜馬はどのように描かれているか」をテーマとしているのと同じであると言えます。 ということで、「山本勘助の実像」を知りたいと思って購入した読者は期待をはぐらかされてしまうではないでしょうか?
 よって、私は前回紹介した上野晴朗氏の著書同様、「山本勘助に関する本をどれか一冊」と言われた場合、この本を推薦するのは躊躇してしまいます。
 とはいえ、山本勘助については『甲陽軍鑑』以降に附加された部分が非常に多く(例えば「武田信玄の軍師だった」などということは『甲陽軍鑑』にさえ記述されておりません)、山本勘助の原初のイメージを掴むという意味では好著だと思います。
 また、私としては「終章」で『甲陽軍鑑』の作者の一人である大蔵彦十郎と山本勘助の共通点の指摘(明確には書いてありませんが、山本勘助は彦十郎が自身をモデルとして創作したというニュアンスが含まれているように思えます)が、興味深く思えました。

 さて、本日紹介したこの本が、『甲陽軍鑑』で描かれた山本勘助像を、その文脈に沿って紹介した本であるなら、次回ご紹介するのは、その『甲陽軍鑑』描かれた山本勘助像がいかに“いい加減か”ということをテーマにした本です。
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2007年07月19日

『軍師山本勘助』笹本正治

 今回は平山優氏と同様に武田氏研究家として著名な著者が書いた
  笹本正治著『軍師山本勘助』新人物往来社
です。
 この本は前回の平山優氏の著書とは全く逆に『甲陽軍鑑』に描かれた「山本勘助」の言動が如何に矛盾に満ち、いかに信用できないか、ということを切々と語る内容となっています。
 具体的には天文13年(1544)の話として、毛利元就は中国地方のほとんどを切り従え・・・と書いてあるが、毛利氏がこのような版図を持ったのは、この後の話であり年代が合わない、といった具合です。
 つまり、著者は『甲陽軍鑑』に描かれた「山本勘助」は、あくまで創作されたものに過ぎないと言っているようです。
 その昔、これも武田氏研究家として著名な柴辻俊六氏から「抹殺博士」に例えられた著者の面目躍如といったところでしょうか。
 山本勘助のファンの方は、気分を害するような内容ですが、この本は『甲陽軍鑑』に描かれた山本勘助像について、警鐘をならすという意味で非常に重要な本だと思います(今まで勘助について否定的な見解を述べる人もいましたが、これほど『甲陽軍鑑』と正面から向き合い検討したものはなかったと思います)。
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2007年07月20日

「検証 山本勘助「非在」説」柴辻俊六

 さて、今回は少し趣向を変えて、単行本ではなく雑誌に載せられた小文の紹介です。
 上野晴朗氏、平山優氏、笹本正治氏と武田氏の研究で著名な人の作品をこのように三冊紹介してきますと、武田氏研究の権威とも言うべき柴辻俊六氏が山本勘助をどう考えているのか知りたくなってしまいました。
 以前、柴辻氏が編著した『武田信玄大事典』(新人物往来社)という本を購入しましたが、そこには「山本勘助」の項が立てられておらず、愕然としてしまったことを覚えております。ですから、柴辻氏は当然山本勘助を否定的に感じていらっしゃるものとばかり思っておりました。
 ところが、今回、以下のものを発見しました。
  「検証 山本勘助「非在」説 −争点 山本勘助の謎と伝説−」
  『歴史読本』一九九八年五月号
 ここでは、なんと山本勘助に関して、留保が付くとはいえ、意外にも肯定的に書かれていました。
 そもそも柴辻氏は今回の大河ドラマの時代考証も担当して居られますし、全面的に山本勘助を否定していたら、こんなお仕事引き受けられないですよね。
 内容は、特に目新しいものは無いので、結論だけを要約しますと、「『甲陽軍鑑』に書かれた勘助像はすべて創作とはいえないが、他にくらべてその感が強い。勘助の存在自体は否定しないが、実像についてはまだまだ謎の多い人物である」ということでした。
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2007年07月21日

『山本勘助とは何者か』江宮隆之

 今回は、山本勘助関連書籍の五回目、
  江宮隆之著『山本勘助とは何者か』祥伝社新書
です。
 今までの勘助本の著者がいわゆる学者さんであったのに対し、この本の著者は作家さんということになります。
 そのせいでしょうか、内容を一言で言えば「ごった煮」です。勘助に関する基本的な情報や『甲陽軍鑑』についての説明があるのははもちろんですが、「山本五十六」の話や江戸時代の勘助が登場する文芸(歌舞伎・浄瑠璃・川柳)をはじめ近代の井上靖氏をはじめとする小説まで幅広く取り扱っており、そのあまりの広範さに思わず節操のなさを感じてしまうほどです。
 このような内容に驚く一方、残念ながら著者の独創や新知見などはありませんので、ある程度山本勘助について知識のある人であれば、退屈な内容だと思います。
 とはいえ、以前少し触れた「萩藩閥閲録」中の勘助の子孫の記事や勘助讃岐出身説などの近年の発見についても触れられており、山本勘助の現在の研究成果を概観するのにはちょうど良いような気がします。何より文体が平易で読み易いため、「勘助本」を初めて読む人にはベストなのではないでしょうか(電車の中で気楽に読めると言った感じです)。
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2007年07月23日

『山本勘助のすべて』上野晴朗・萩原三雄編

 今回は、山本勘助関連書籍の六冊目、
  上野晴朗・萩原三雄編『山本勘助のすべて』新人物往来社
です。
 この「〜すべて」シリーズはもう何冊目になるのでしょうか?発行されるとどうしても収集癖がおさまらず、つい買ってしまいます。
 さて、内容ですが各編それぞれ執筆者が異なりますので、それぞれ全く異なった視点で書かれてはいるのですが、しかしながら、他の本を既に五冊も読んできますと、ほとんどどこかで読んだような話なので、かなり食傷気味です。
 そんな中で、多少なりとも独創的なものを感じたのは、数野雅彦氏の「甲府城下町の山本勘助屋敷」と西川広平氏の「山本勘助と足軽」でした(それから「山本勘助人名辞典」は利用するのに便利)。
 前者は、甲府城下町の古絵図を丹念に調査したものですが、如何せん最古の古絵図でも勘助死後100年後であり、どこまで信頼できるのかぎ文です。
 一方、後者は勘助の話というより、「武田家における足軽の立場、役割」といったもので、山本勘助自身のことを描いた訳ではありませんが、一次史料(古文書)を利用し、史料が少ない中、多角的に説明してあったので、他の章よりはずっとアカデミックな内容となっております。
 以上から、値段的なもの(2800円)が高くないと感じる人のみ購入をお勧めするといった感じでしょうか。
posted by 天王寺屋 at 00:28| Comment(0) | TrackBack(0) | 山本勘助 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする